日が傾き始めた空間にカンカンと踏切の音が響く。

「ねぇ、叶え屋さんって知ってる?」

「あー、知ってる知ってる! なんでもお願いを叶えてくれるんでしょ?」

「いいなぁ、もし叶えてもらえるなら先週の赤点を無かったことにしてくださいってお願いするのに!」

「あはは、なにそれー」

道行く女学生がこぼす噂。どうやらこの町では「叶え屋さん」で落ち着いたらしい。

「叶え屋さんだってそんなくだらない願いは叶えたくないってさ」

ぼそ、とこぼした言葉は思ったより大きく響き、女学生たちの耳に入ったらしい。

何あの子、気持ち悪い、そんな声が聞こえて、その言われている張本人の少年は溜息をついて笑みを浮かべた。

何を思われようがどうでもいい。どうせまた忘れられるのだから。

「馬鹿げた願いだね」

少年のその声は、電車の通過音でどうせ届いていない。


どの町に移っても少年の定位置は公園になる。 あいにくと覚えてもらえない身では宿を使うのすら困難だからだ。

「忘れられるって本当不便だよなぁ」

ぼうっと呟く。 かつて、自分の記憶の始まりの頃はこの自分の状態に嘆いたりもしたっけ、と思考を昔に寄せる。

最初こそは本気で探していた。自分を知っている人を、自分を忘れないでいてくれる人を。

いつからだろう、それに諦めが混ざるようになったのは。 いつからだろう、嘆くことも涙することもなくなったのは。

「……泣いたって変わらない」

結局は、そうなのだ。泣いたって暴れたって、この現状は変わらずにまた自分は忘れられる。